赤ちゃんを揺さぶる気持ち
このあいだ、経済産業省の事故防止プロジェクトの人に話したことに、産後の女性は通常の状態ではないんだということを理解してもらえるよう話をしました。
たとえば、出産時の女性は、目を閉じていきんではいけないと言います。出産時に女性の血管は収縮するので、いきんで強く閉じた目元が充血というかシミになって残ったりすると言われていたりします。出産後に細かい仕事、たとえば針仕事をしてはいけないとも言われます。出産で収縮した目の細い血管がダメージを受けやすいからでしょうか。他にもいろいろなことが言われています。
ホルモンも劇的に変わるわけで、それはその人の人格とかそういうものとはかけ離れた所へその人を持って行くわけで。
よく動物で......犬でも猫でも。仔を産んだ後のメスは気がたっているから近づいてはいけないと言います。それは人間でも一緒で。それはたぶんホルモンとかのせいで。
だから、製品の正しい使い方を、わかりにくいマニュアルで説明してもダメだと。
生後2か月の長女を揺さぶって脳に損傷を与えて殺害したとして武中明日香容疑者(24)(堺市中区)が殺人容疑で大阪府警に逮捕された事件では、背景に出産直後の母親の孤独感と疎外感が浮かんでいる。昨年8月に開かれた出産準備のためのマタニティー教室で一緒だったという20歳代女性は、読売新聞に寄せたメールで、おなかの赤ちゃんを気遣っていた武中容疑者の当時の様子と事件の落差に驚く一方、孤独な育児に不安を募らせる母親たちの現状を訴えた。
乳児揺さぶり殺害、孤立した育児「ひとごととは」(読売新聞) - Yahoo!ニュース
このニュースを最初に報道で見たとき、これが特異なことではないと思った人は多いんじゃないかと思う。というか私もそう思った。
さらに〈私も初めての子育てでくたくたの毎日〉〈トイレにも行けない。30分でいいから一息つける時間が持てたら......。そんな母親はいっぱいいます〉と記し、〈母親の人間的な未熟さも原因の一つでしょう。でも、妊娠・出産でホルモンバランスは崩れ、精神的にもろくなっているのを忘れないで〉と訴えた。「ひとごととは思えない」。事件を受け、堺市内の子育てサークルに参加している複数の母親は読売新聞の取材にそう答えた。1歳の長女を持つ同市南区の女性(32)は友人との雑談で発散しているが、「話し相手がいなければ、すべてを抱え込み、ノイローゼになっていてもおかしくない」と打ち明けた。
乳児揺さぶり殺害、孤立した育児「ひとごととは」(読売新聞) - Yahoo!ニュース
うん。トイレ行けなかった。30分一息つける時間があったらとは思った。
赤ちゃんは大事だし愛してる。でも、大事で愛してるからこそ、目も手も離せない。放置しててもケロッとしてるタイプの赤ちゃんもいるけれど、一瞬でも手から離れたら泣く赤ちゃんもいる。それを、「赤ちゃんは泣くのが仕事だからほっとけ」と言うのは違うと思う。
なんというか、たとえて言うなら、体中の皮膚の表皮がはがれてしまっているような精神状態だと思う。ほんの少し触っても敏感に激しく痛む。守る表皮が無い状態。そんな精神状態が昼夜続く。これは本能として人間が持つ感覚なのかもしれない。
それでも自分だけの手で育てたいと決めていたから、苦ではなかった。だけど、そういう決意を持って産む人はあまりいないと思う。本能のみで動く人間に理性を行っても無理だ。
振れば、なんとかなる。
振れば、泣きやむ。
こう思うのも、また、人間の本能かもしれない。
赤ちゃんが泣いて泣いて、ちょっとでも離れれば泣いて、それは自分を求めているからで、それを放置しておけというのは自分が望むものとは違うわけで。泣けば、表皮がない精神状態に激しく突き刺さるわけで。そこに安心はない。どうしようもなく、解決を求めて、振る。
おしゃべりは、多少の発散になるかもしれない。母子だけで暮らしていれば、おとうさんの帰りは遅いとかいないとかなら、一日中誰とも話さない日が延々と続く。赤ちゃんに話しかけることを最初からする人は、赤ちゃんを初めて見る人が多い今では、あまりいないと思う。赤ちゃんに話しかけてももちろん反応は返らない。ひとりごとをいつまでもいつまでも言い続ける日々にしかならない。それは数年後には結晶して子どもに現れるのだけれど、なかなか最初はそうは思えない。
「なぜ泣くの?」。
その答えがわからない。
だから、たたく。振る。
理屈ではない。理性はホルモンの働きで失っている。
武中容疑者も出産直後の昨年12月に堺市の訪問を受けていた。問題なし、とされたが、約1か月後の今年1月22日、自ら市中保健センターを訪れ「娘をたたいてしまう」と訴えた。「(親などは)遠くて頼りにくい」と話し、孤立した育児環境をにじませていたという。長女はその3日後に揺さぶられて死亡。武中容疑者は今月16日に逮捕された。府警の調べに「夜も眠れないほど子育てに疲れていた」「夫が育児を手伝ってくれない」などと供述した。
乳児揺さぶり殺害、孤立した育児「ひとごととは」(読売新聞) - Yahoo!ニュース
そういう時を経て、ベビースリングに出会ったとき、求めていたものはこれだと思った。
いつも赤ちゃんを身につけていれば、赤ちゃんは泣かずに気持ちよさそうにしてる。求めていたのは、赤ちゃんが泣かないことや泣いてもほっとくことではなくて、赤ちゃんが平和な気持ちでいてくれること。満たされていてくれること。
振らなくても、ベビースリングに入れて抱いていれば泣きやむ。赤ちゃんが満たされている。だから自分も安心する。
もしも、この人に、ベビースリングがあったらどうだっただろう?
優れたベビーキャリアがあったら、どうだっただろう?
夜中泣いても、ベビースリングに赤ちゃんを入れることで心の平安を得られたかもしれない。
家事をする間に泣いても、ベビーキャリアを使ってできたかもしれない。
優れた道具は、人を、一番頼るものがない時期の人間を、救うことができるんだ。
そう思ったから、All Aboutの「ベビー用品・育児用品」のガイドを引き受けることにした。
ひとりでもいい。道具で救われる人がいるなら、それでいいと思っている。



