優先席で席を譲られる最強アイテム
子どもたちを連れて電車に乗る時、だいたい優先席に近いドアから乗って、優先席付近に立つ。
優先席がふさがっていると、まず席を譲られることはない。妊娠中で大きなお腹の時なんか、中央線の優先席に近いドアを入ったとたん、優先席にびっしり座っていた若若男女がいっせいにタヌキ寝入りを始めたことがあった。
たまに、子育てを終えたぽいおばちゃまが席を譲ってくれたりする。ウランはまだ混み合う電車に立たせておくと転がってしまうので、座らせてもらう。そうたまに、たまにそういうこともあるっていう程度。まぁそういうことはない。
ところが、今日は、優先席に近いドアから入った途端、優先席に座っていたおじさまとギャルっぽい女子のふたりが、子どもたちふたり連れたかあちゃんを、ハッと見た。
「ボク、次の駅で降りますから、どうぞ、座ってください」。
と、妙に笑顔で声をかけて席を立つおじさま。
あ、そうですかすみません。
ギャルっぽい女子も、ケータイしながら、そそくさと席を立ってしまった。
そう、今日のかあちゃんは、いつもとちょっと違っていた。
いつものかあちゃんに、ついていないものが、ついていた。
今日のかあちゃんに、ついていたもの。
それは。
ネギ。
いつもは野菜は生協で宅配してもらってるから、野菜を買って持ち歩くことはない。でも、先週は野菜がセットになってるグリーンボックスというのを頼んじゃって、セットにネギが入ってなかったから、ネギを切らしちゃった。急に寒くなったから、あったまる豚汁を作ろうと出かけた先でネギを買って、ショッピングバッグに突っ込んで小脇に抱えて電車に乗った。
小さな子どもをふたり連れたおかあさんが、ネギ抱えて電車に乗って来た。ネギがかもしだす、なんとも言えぬ生活感。他の野菜では絶対に出せない無言の圧力。その存在感。古来より、おかあさんの持つ袋にはネギが刺さってる。おかあさんがネギを刻む音で目覚める。ネギ。いつも冷蔵庫にはネギ。ネギ。
おかあさん………………。
この席どうぞ。
ネギ、最強。
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