医師の予定を入れられる日に、処置を受ける。
かわいいインテリアや整った設備の部屋や、こぎれいな個室の並ぶ産院。大きくて立派な分娩台。見学した時に見た。
でも、横になった部屋は、薬品の入った段ボール箱が積み重なる、まるで倉庫。
この部屋で、私の初めての赤ちゃんは、葬られるんだ。
ここで出産する人は、きっと一度も見ることがない部屋。
足を、ここに乗っけなければいけないのか? 横たわった台にある器具に足を乗せようとする。
「あ、そのままでいいんですよ」と、横に付いた助産師。
「子宮にポリープがあって、その処置を受けた時は、まずここに足を乗せて固定させられたんです」。
「それは、おつらいことでしたね」。
初めて、この産院で、血の通ったような言葉を受ける。
麻酔を受け、頭の中が真っ白になる。たくさんの星がキラキラ輝いている。この麻酔は気持ちいい。
医師の笑い声で目が覚める。ゆっくりと個室に運ばれる。麻酔が切れると、ものすごく痛い。吐く。その日のうちに帰宅。
「2ヶ月後ぐらいに来てください。生理があって、その後に。妊娠出来るかどうか、見ますから」。助産師が言う。
出血はいつまでも続いた。痛みもいつまでも続いた。ポリープで掻爬を受けた時よりもはるかに痛く、はるかに出血も多かった。痛くて立ち歩けない。横になり続ける。
言われたように、しばらくして、また産院へ行く。
内診台に乗る。
「生理が終わったばかりじゃないか! これじゃわからない!」。
そうつぶやかれただけで、医師の診察が終わる。
いったい誰がわかっているというんだろう? 初めての妊娠で、初めての流産で、掻爬の処置を受けた後の診察を受けるのには、どの時期が適しているのか、なんて。
どうして、この産院が人気の産院なのか、よくわからなかった、どうして、この医師が有名な医師なのか、わからなかった。
もう、ここへは来たくなかった。
定期的な経過観察のために、持病を治してくれた大学病院の医師の所へ行く。
「妊娠の経過はどうですか?」と、その医師。
「流産でした。稽留流産です」。
「…それは、残念なことでしたね」。
暖かい素晴らしい医師だと思った。余計ななぐさめも同情もなく、ただそう言ってくれた。この人は、死を知っている。
もう本当に、子どもを持つことはできないのかもしれない。また稽留流産をすれば、不育症なのかもしれない。私の体が持つ遺伝子は私の代で断たれ、この世に未来永劫残ることはない。それでいいんだろうか? 本当にいいんだろうか?
お腹にやってきたはずの命は、どこへ行ってしまったんだろう? 心臓が動いたら、そこに命は宿っているんだろうか? 人の命って、いったいいつから始まるんだろう? もし消えたお腹の子に命があったなら、その命はどうなったんだろう?
「おんまはみんな、ぱっぱかはしる、ぱっぱかはしる、ぱっぱかはしる、おんまはみんな、ぱっぱかはしる、ぱっぱかはしる、どうしてなーのかー、だーれもしーらなーい」。歌う。歌ってばかりいた。
どうしてなのか。誰も知らない。どうしてなのか。誰も知らない。
うなされるように夢を見る。夢の中にいたのは男の子。
丸い大きな頭に真っ直ぐな黒い髪が印象的な、男の子の後ろ姿を夢の中で見る。
年齢は、5、6歳。
夢に出て来たキミは、お腹の中に一度やってきて、去ってしまった子なんだろうか?
それとも、これから出会うことになる子なんだろうか?
でも、もう子どもを産むことはないのかもしれない。
だけど、もしも子どもを授かるなら、できる限りのことをしてから迎えよう。
妊娠準備や出産や育児の本を、何冊も何冊も読み続ける。
行ける限りの講演会や講習会に行く。
それから、このブログを書き始めるまでの道のりが始まる。
丸い大きな頭に真っ直ぐな黒い髪の5、6歳の男の子は、いま、私の目の前にいる。